手書きを通じた考える力の育成

 手を動かしながら考えるための第一歩

 先日小学1年生と一緒に、たくさん字を書く練習をしました。(スマートフォン等の普及に伴い、字を書く機会は減っていますが、手を動かしながら考えることの練習としては、紙と鉛筆がもうしばらく優位なのではないかと思います(50年後には状況は違っているかもしれません))。学校の夏休みの宿題として書字が指定されていたのですが、『ゆっくりでいいから丁寧にきれいな字を書く』ことを指導されているようです。もちろん、すでにできている子はよいです。ここからの話は書字がうまくできていない子に向けて、滑らかに書くことを優先させたアドバイスです。

書くことの難しさと克服のヒント

 書くのが苦手な子は学業に影響が出るだけでなく、自己表現の一つとしての書字の楽しさも失っているかもしれません。私が見る限り、小学校低学年くらいで書くのに苦労している子の多くは、力が入りすぎています。ギュッギュと書いています。私自身もそうでした。「正確に!」と意識するとつい力が入りすぎて、かえってバランスを崩してしまいます。出来栄えがパッとしないのは書いたその子自身もわかりますし、力が入っている分、必要以上に疲れてしまいます。書いている内容にも集中できないので、作文なども苦手になってしまいます。そして、書くことが嫌いになってしまうこともあります

次の3つの点を説明をして、一緒に練習をしています。

  1. 疲れないために、軽く持つこと

  2. リズムを重視すること

  3. 無意識に書けるようになること

順に説明しますね。

1.疲れないために、軽く持つこと

 まずは、実験をするところから始めます。最初から「正解」を教えるよりも、自分で感覚を掴むほうが定着しやすいからです。鉛筆の持ち方や持つ位置を少しずつ変えながら、たくさん線を引いてもらいます。慣れたら図形や字も書きます。大きさを変えたり、強さを変えるも練習します。練習を通して、自分が楽に書ける持ち方を探します。同時に書く感覚を掴んでもらいます。力が入っている子は、鉛筆を短くそしてぎゅっと握っています。「もっと軽く持っていいよ」。逆に、鉛筆を持つ位置が高すぎて力を伝えられなかったり、細かな制御が難しくなっている場合もあります。また、左利きの子は紙全体を左の方に置くなど、自分の書いた字が見えることも大切です。
 その子にとって書きやすい持ち方を見つけたとしても、気がついたら元に戻っていることは多いです。既に染み付いてしまっていますから、そんなに簡単には直りません。細かく指摘して、早く新しい持ち方に慣れましょう。

2.リズムを重視すること

 私の場合は、見るに見かねた母親によって習字を始めることになりました。毛筆は楽しかったです。トンと置いて、スッと引いて、サッと払うか、グッと止める。力の入れどころ/抜きどころ、リズムを大切に、と教わりました。たまたまかもしれませんが、その頃から学校の勉強もそんなに苦ではなくなってきたように思っています。
 今は私が子どもたちに、同じようにアドバイスしています。簡単な字や、自分の名前の字で、リズムを練習します。たくさん書いて、「これはきれいだね」、「これはもうちょっとここを丸くするといいんじゃない?」、「この線がもう少し長いとかっこいい」。うまくいったときは自分でもわかります。それを少しずつ体で覚えていくことが目標です。うまくいくときも、変になるときもありますが、いちいち気にしすぎない。たくさん書くことを優先。そしてその日の最後に、「あと1回、きれいに書けたら終わりましょう」
トン、スッ、サッ
トン、スッ、グッ

3.無意識に書けるようになること

 「つ」や「し」など簡単な字を1字ずつ書くことから始めて、その子の名前を書くくらいまで続けます。その後、簡単な文章をゆっくり声に出して読みながら、そのスピードで書く練習をします。もう少し慣れたら、多少よそ見したり、ほかの会話をしながらでも書けるようになったら、もうかなり無意識に書けています。いつの間にか字が大きくなっていることが多いと思います。それはその子にあった字の大きさではあるのですが、小さく書く練習もしてみましょう。特に学校やテストにおいては、小さい字が必要になることも少なくありません。
 書字の練習ばかりやっているわけにもいきませんし、長くやりすぎても飽きてしまうので、少しずつ継続して練習を行います。書くのがまだがぎこちないうちは、音読やパズル、暗記ゲームなど、書く必要のない課題と並行させると良いでしょう。その子その子で器用さや成長段階は異なりますので、焦らずできることを進めるのが良いと思います。

書きながら考える

 手が勝手に動いてくれるようになると、意識は思考に集中することができます。このことは大人でも、キーボードのブラインドタッチや、車の運転などで実感できると思います。操作がぎこちない間は、内容の良し悪しなど考えられないと思います。
 操作がスムーズになると、つまり無意識に手が動くようになると一転して、考えることに集中できます。その効果がわかりやすいのが、作文と算数の文章題です。少しずつ作文や算数の練習を並行させていくと、今までがウソのようにできるようになっているので、ますます楽しくなってくるでしょう。
 書くことに慣れることにより、思考を整理しながら進めることができるようになります。作文や小論文、数学などの筆記問題が得意になるだけでなく、物事をすっきりと考えられる頭脳が育っていきます。学習において、目的と手段を履き違えてはいけません。覚えることや点数を取ることが目的ではありません。頭の使い方(手や目の使い方)が上手になり、自分で考えたり、学習することが楽しくなることが、その子の将来にとって大きな財産となるでしょう。

おまけ:学習プログラムは柔軟に組み替える

 書字の学習に限らずほかの学習においても、子ども一人ひとりの特性や成長段階に合わせて、学習プログラムを柔軟に組み替えることが学習効率を高め、結果として学習への取り組み自体が改善されます。
A:その時点でのその子の重点課題を1つだけ定める
B:その重点課題を克服していなくてもできることを同時並行で進める
 上記のA, Bを適切に設定して、柔軟に組み合わせ・組み替えていくのが理想的です。より重要なのはAです。今何が根本的な問題なのか? それを克服するにはどうしたら良いのか? を子どもにも理解してもらって、楽しく快適に学習を進めていきましょう。とはいえ、Aは根本治療のようなことをするので、時間がかかる場合もありますし、ここで焦っては元も子もありません。その課題を解消しなくてできることはあるはずですので、そのこの状況に合わせて柔軟にプログラムを組み替えるのが良いと思います。

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