「3分読み聞かせ」で広がる子どもたちの世界
授業の合間に息抜きとして「3分読み聞かせ」をしています。
適当に選んだ本の、適当に開いたページの適当な箇所を読んで、多少の解説をします。
最近使った本は、例えば以下のようなものです。
- 『物語のつくり方』(新井一樹)
- 『和音の正体』(舟橋三十子)
- 『パズルで解く世界の言語』(風間伸次郎)
- 『ムラブリ』(伊藤雄馬)
- 『熟達論』(為末大)
- 『教室を生きのびる政治学』(岡田憲治)
- 『外は、良寛。』(松岡正剛)
- 『動物たちは何をしゃべっているのか』(山極寿一、鈴木敏貴)
- 『5日間の休みで行けちゃう絶景・秘境』(A-Works)
- 『トポロジカル物質とは何か』(長谷川修司)
- 『体はゆく』(伊藤亜沙)
- 『量子コンピュータ』(渡邊靖志)
- 『千利休』(清原なつの)
高校生はもちろんですが、小学生にも手加減なしです。(ウソです。かなり手加減しています)
目的は、
- 気分転換
- 知らない世界がいっぱいあるんだ!
- いろいろな日本語に触れる
特に3番目の日本語については、意外に重要だと思っています。
日本語の多様性
普段、友達や家族と話す言葉だけが日本語ではありません。YouTubeなどで使われている日本語にも、偏りがあると思います。しかし日本語はもっと多様で、歴史もあっておもしろい。おもしろさまではわからなくても、多様性は感じてほしいのです。
思考のツール
さらに今後、子どもたちが成長していく中で、さまざまなことを考えるようになるでしょう。思考は言語に縛られます。言葉が貧困だと思考も貧困になりやすい。たとえもし、いい感性を持っていたとしても、それを伝える術がなかったら、浅い考えしかないと思われてしまいます。
情報構造の理解
また、情報を構造的に理解する訓練にもなります。難しい本には専門用語も多く、内容を理解するのは困難です。しかし、情報を構造的に捉えることで、意味を類推できたり、わからないなりにも「関係性はわかる」ことができます。これから先、たくさんのことを学んでいく中で、情報の関係性に注目できると混乱することも少なく、「勉強ができる」ようになっていきます。
実例(小学5年生)
『トポロジカル物質とは何か』(長谷川修司)P122
グラフェンのなかの電子が、どう「普通でない」のか、少し詳しく説明しましょう。
電子に限らず、自動車でも野球のボールでも、その速度が速くなればなるほど運動エネルギーが大きくなります。正確に言うと、運動エネルギーは、速度の2乗に比例します。つまり、速度が2倍になると運動エネルギーは4(=2x2)倍になり、速度が3倍になると運動エネルギーは9(=3x3)倍になります。これが非相対論的な物理学、つまりニュートンの物理学で記述される普通の物体の運動です。これは次のように理解できます。
自動車のガソリンの消費量で考えましょう。2倍のスピードで走るには2倍のスピードでエンジンを回す必要がありますので(ここではギアチェンジは考えません)、1秒間に消費するガソリンの量は2倍になります。一方、2倍のスピードで走れば、1秒間に2倍の距離を走りますので、当然ながら2倍のガソリンを消費します。よって、1秒間に消費するガソリンの量を考えると、速度が2倍になると2倍のスピードでエンジンを回し、なおかつ1秒間に2倍の距離を走りますので、結局2x2=4倍のガソリンを消費することになります。消費されたガソリンの化学エネルギーが運動エネルギーに変換されますので、結局4倍の運動エネルギーになります。同様に自動車が3倍の速度で走れば、エンジンが3倍速く回るし、1秒間に走る距離も3倍になるので、ガソリンの消費量は3x3=9倍となり、よって運動エネルギーが9倍になります。
時速60kmで走る自動車は、時速40kmのときと比べて、速度は1.5倍ですが、その運動エネルギーは2.25倍(=1.5x1.5)になっています。なので、1時間に走る距離は1.5倍ですが、ガソリンは2倍以上の量を消費しています。ですので、スピードの出しすぎは危険なだけでなく、省エネでないのがわかります。
これが、普通の物体の速度と運動エネルギーの関係です。ほとんどの金属や半導体のなかの電子も同じで、電子の運動エネルギーは速度の2乗に比例します。
ところが、グラフェンのなかの電子の運動エネルギーは、速度(の1乗)に比例するのです。これは質量をもたない光と同じ性質なのです。それを直感的に理解するために、質量ゼロの仮想の自動車を想像してみましょう。
3分だとこのくらいです。ゆっくり読みながら、途中で言葉の説明をしたり、絵を描いたり。
グラフェンが何なのか? 電子とは何か? エネルギーとは何か? などは詳しくわからなくても、
- グラフェンというものがある
- グラフェンというもののなかを電子というものが動いている
- その電子の動きに関係のあるエネルギーは、通常のものではない
- 通常の動きに関係のあるエネルギーは、2倍速くなると2x2=4倍の大きさになる
- しかし、グラフェン内の電子のエネルギーは、2倍にしかならない
そのほかに補足としては、
- ちっちゃいちっちゃい世界の中の粒々には、○○子という名前がついている。「でんこ」じゃなくて、「でんし」
- 英語などでは、「—on」(electron)
- グラフェンっていうのは、鉛筆の芯にセロテープをくっつけて剥がせば、できるらしいよ。めっちゃ軽くて丈夫で電気も通す
小学生でも、このくらいのことは理解できます。そして、何だかわからないけどすごそう!と。
まだまだ知らないこと、おもしろいこと、世の中にはたくさんたくさんありますよ!