月と南風 (第一話)

めぐりあひて


   月と南風は、幼馴染であり、ママ友でもあった。

   最近はなんとなくタイミングが合わず

   疎遠になっていたが、

   つい数年ほど前までは、頻繁に会い、

   お互いに、何でも話せる気の置けない仲だった。

   子どもたちの成長は、彼女たちの喜びであり、

   同時に悩みの種でもあった。




見しやそれともわかぬ間に

   南風はいつも子どもたちを、

   やわらかく、あたたかく、華やかな甘い香りで包んだ。

   子どもたちは、明るく成長した。

   いつもにこやかな南風は、子どもたちを深く愛していたし、

   もちろん、子どもたちからも愛されていた。

   しかし時々、感情が爆発することもあり、

   「勉強しなさい!」、「早くしなさい!」、「なんでできないの!」

   怒鳴り散らしてしまう。

   子どもたちは秘かに、毎年その回数を数えているらしい。

   「15号は、でかかったな」

   剰え、”カトリーナ”などとニックネームを付けていることもある。

   ふざけてる!

   月のように穏やかに暮らせたら幸せだろうと思うが、

   どうしても自分の感情を抑えることができない。

   特に、落ち着きがなく、「ちゃんと」考えている風には見えない

   我が子を見ていると、自分を鏡に映されているようで、

   余計に腹が立つ。




雲隠れにし


   月は、自分の分身である子どもを、

   いつも少し距離を置いて見つめてきた。

   自主性を身に付けさせようと、判断をゆだね、

   自信をつけさせようと、それを否定したことはほとんどない。

   いつの間にか自分より大きくたくましくなった息子を、

   少し軸が傾いているような気はするが、頼もしく感じている。

   特に「勉強しろ!」などと注意したことはない。

   しかしそれは、言わなくてもやるからではなく、

   身も痩せる思いでじっと耐えていたと言うべきだろう。

   実際月は、周期的に激ヤセと肥満を繰り返していた。

   南風のように、思ったことをずけずけと何でも言うことができれば、

   どれほど気持ちがすっきりするだろうと思わぬでもないが、

   そう思ってできるくらいなら、もうとっくにやっている。





夜半の月かな

   ある日突然、

   月 は姿を消した。










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